IELTS NEWS 第5回 渡米 ニューヨーク到着~不安な初日~


iletsコラム 長い出願プロセスを終えて、何校か合格通知を受け取り、私は予てからの希望通りニューヨークの大学院に行くことに決めました。そこから渡米の時期を決め、ホテルと不動産屋探しなど現実的なリサーチを始めました。9.11テロの直後だったため、授業開始日の1か月前からしか入国が許可されず、教授への挨拶、オリエンテーション、アパート探し、引っ越しと限られた時間で終えられるか、とても不安な気持ちでした。

まずはアパートに移るまで滞在するホテルをインターネットで探しました。これからの学費、生活費を考えると少しでも節約したいので、1日30ドルほどのアパートメント・ホテルに1週間の予約を入れました。立地はマンハッタンの西側、大学からもそう遠くないチェルシーの北部でした。後にニューヨークで暮らし始めてわかったことですが、マンハッタンで普通のホテルに泊まろうと思ったら、最低でも1晩200 ドルは下りません。そう考えると、1晩30ドルというのは破格であり、ホテルとしてはあり得ない額でした。


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旅の準備や仕事の引き継ぎに追われるうちに8月も半ばになり、いよいよ出発の日が来ました。荷物を詰め込んだトランクを引きずって電車で成田空港まで行き、ニューヨークのJFK空港行きの飛行機に乗りました。家族に見送られての旅立ちでしたが、なぜか実感が湧かず、これからニューヨークで暮らすことも信じられない気がしました。機上でもその気持ちは変わらず、ぼんやりアメリカ映画を観ている間に、JFKに到着してしまいました。

無事入国審査を終え空港のロビーに出ると、夕方5時を過ぎていました。公衆電話でホテルに確認の電話を入れると、きついスペイン語訛りの女性が出て、怪しげな英語で対応してくれました。通じているのか半信半疑で電話を切り、タクシー乗り場に行きイエローキャブを拾いました。ドライバーは頭に大きなターバンを巻いたアラブ人で、英語はほとんど理解できないようです。仕方がないのでホテルの名前と地図を見せて、行き先を伝えました。

車はJFKを出てクイーンズ地区を通過していきます。華やかなマンハッタンとは違って、クイーンズは全体に同じような茶色の建物が建ち並び、通りに街路樹があることも稀です。ニューヨークでも最も多様な人種が暮らし、観光客とは無縁の混沌とした生活の場です。 数年後に自分も住むことになる場所ですが、その時は真っ赤な西日を浴びた荒涼とした雰囲気に、不気味な感じを覚えました。

アラブ人ドライバーとは会話もなく、沈黙のまま車はマンハッタンに向かって進んで行きます。やがて前方にマンハッタンの高層ビル群が浮かび上がり、やっと自分がニューヨークにいる実感が湧いてきました。映画セットのような風景をターバン越しに見つめながら、これからこんな場所で暮らしていけるのか、突然不安に襲われました。そもそもホテルに辿りつけるのか。一晩30ドルのホテルが、急に怪しく思えてきました。

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