IELTS NEWS 第6回 マンハッタン ベッドまでの長い道のり 前編 ~チェルシー地区~


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いよいよクイーンズボロウ橋を渡って、マンハッタンに入ります。急に交通量も人通りも多くなり、その間を縫うように車は走っていきます。オフィス・ビルやホテルが立ち並ぶミッドタウンを西に向かって進み、数ブロック南に下りチェルシー地区に入りました。ホテルが普通のアパートの建物なのでなかなか見つからず、同じ通りをぐるぐると走り回りました。アラブ人ドライバーは眉間に皺を寄せて、渡した地図を凝視しながら懸命にホテルを探してくれています。私はホテル探しを彼に任せて、前面に非常用梯子が架かったニューヨーク独特の建物を眺めていました。

ファッショナブルなイメージのチェルシー地区とは異なり、辺りは治安があまり良くなさそうで、私も少し緊張してきました。今では洗練された地域として知られるチェルシーも、1980年代は非常に治安の悪い場所でした。私の行った頃もチェルシー中心部は安全でしたが、ヘルズ・キッチン(地獄の台所)と呼ばれる地区と接する北部は、まだ以前のチェルシーの名残があり、危険な匂いが漂っていました。

20分ほど同じ場所を走り回った後、運転手はやっとホテルを探し当て、車を停めました。チップを多めに渡すと、車のトランクから荷物を出し、入り口まで運んでくれました。走り去るイエローキャブを見送りながら、安堵の気持ちがこみ上げてきました。やっとベッドに横になれる、そう思うと急に眠気が襲ってきます。トランクを押しながら半地下のビル入り口まで行き、呼び鈴を鳴らしました。しばらく待ってみましたが、応答がありません。もう一度ボタンを押してみましたが、ドアの向こう側からはやはり何の物音もしません。何度ブザーを押しても同じです。私は途方に暮れてしまいました。

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ストリートに座り込んで、5階建ビルの窓を見上げても人の気配さえしません。時間も7時を回り薄暗くなってきます。近くの公衆電話で電話をかけても、誰も出ません。どうしようもなくなって、放心状態で道端に座り込んでしまいました。

到着してから1時間、何度も呼び鈴を鳴らしましたが、状況は変わりません。夜を路上で過ごすわけにもいかず、さすがに何とかしなければと思い始めました。新たにホテルを探すか、取りあえず24時間営業のカフェを見つけるか、どうにかしなければ。そう頭で考えても疲れで身体が動かず路上に座っていると、ガラの悪い連中が私の方を見ながら通り過ぎていきます。しばらくしてヒップホップ・ダンサーのような恰好をした黒人男性が、耳にイヤホンを入れたままニヤニヤ笑いながら近づいてきました。

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